研究経歴

望月和博

 

環境および資源・エネルギーの分野において、化学工学を基本とした学術・技術研究を行うとともに、地球温暖化対策や持続可能な社会の構築に向けた取り組みを念頭に置き、現場での実証や、実社会における対象技術や運用システムの設計・評価に関する研究に従事してきた。

 

1993~1998 明治大学大学院理工学研究科

生物活性炭法を用いた上水および廃水処理プロセスに関する研究(Studies on the advanced water treatment processes associated with biological activated carbon)にて博士(工学)の学位を取得。生物活性炭による水処理では、活性炭吸着と生分解という全く性質の異なる過程が同時に起こるので汚染物質の除去機構は複雑であるが、生物活性炭プロセスの操作設計法の確立を目指し、化学工学的手法を用いて物理化学・生物化学現象を解明した。(代表論文:K. Mochidzuki, Y. Takeuchi, Water Research, 33 (11), 2609 (1999))

 

1998~2001 東京大学生産技術研究所

日本学術振興会リサーチアソシエイトとして、ゼロエミッション技術に関する研究に従事した。ある産業での廃棄物を「ごみ」として処分するのではなく、「未利用素材」と位置づけ、業種間を超えて別の生産プロセスの原材料として潜在する物質を活用するゼロエミッションの概念に基づく技術・システムを念頭に置き、主に植物バイオマス由来の廃棄物を対象とし、高温高圧水反応を用いた資源化プロセスにおける反応挙動の定量的評価ならびに総合的なシステムの研究を進めた。バイオマスの高温高圧水反応挙動の定量的評価に関する研究として、磁気浮遊天秤を利用して非接触でリアルタイムに高温高圧水中のサンプルの重量変化を測定する方法を開発し、反応速度論を中心に、定量的な分析・評価によりバイオマスの高温高圧水反応の挙動を解明した。(代表論文:K. Mochidzuki, A. Sakoda, M. Suzuki, Thermochimica Acta, 348 (1-2), 69 (2000))

 

2001~2002 ハワイ大学自然エネルギー研究所

再生可能資源研究室の研究員として、バイオマスの炭化技術ならびにバイオマス炭化物(バイオカーボン)のエネルギー利用の研究に従事した。木炭を始めとするバイオカーボンは古くから製造・利用されているが、実際の生産においては、収率の低い技術を採用している場合も多いのが現状であるため、エネルギー戦略のなかでは大きく注目されていないのが現状である。それに対し、熱化学計算に基づく理論的な検討において加圧条件下で高効率炭化が可能であることを示しならが、実験的に高効率炭化条件を証明した。また、ダイレクトカーボン燃料電池の基礎研究として、得られた炭化物の電気化学特性を評価した。(代表論文:K. Mochidzuki, F. Soutric, K. Tadokoro, M. J. Antal, M. Toth, B. Zelei and G. Varhegyi, Industrial & Engineering Chemistry Research, 42 (21), 5140 (2003))

 

2002~2016 東京大学生産技術研究所

寄付研究ユニットの客員助教授(後に客員准教授に職名変更)、2008年からはエネルギー工学連研研究センター特任准教授として研究室を主宰し、バイオマス資源化学工学、地域バイオマスエネルギー工学の研究を進めてきた。要素技術・プロセスの基礎研究から、合理的なマテリアル・エネルギーフローに基づく地域システムの設計・評価、地域社会と連携した実証試験まで一貫した研究に取り組んだ。地域社会・地域農林業と連携した実証研究に力を入れ、千葉県香取市、長野県信濃町およびベトナム南部をフィールドとして、バイオマスの生産・収集・輸送からバイオ燃料などの生産、製品と残さなどの利用に至るまで、物資・エネルギー収支に加え、土地利用、環境影響、地域経済など様々な因子の評価に基づいて、持続可能な地域システムの確立に資する総合検証を行った。いずれのフィールドにおいても、基本構想の作成とデモンストレーションプラントの基礎設計の段階から、その中心として関わってきており、工学的な技術研究に留まらず、地域の需要、経済などへの影響や適合性の評価手法の開発などについても実施してきた。ベトナムでの研究は、JICA/JST地球規模課題対応国際科学技術協力事業の課題として実施しており、JICA短期専門家として頻繁に訪越し、現地の研究者や地元関係者と密接な協力関係を構築し、ベトナムバイオマスタウン実現に向けた国際共同研究を展開してきた。

また、専門分野のバイオマス研究に加え、エネルギー工学連携研究センターの一員として、広範な分野に広がるエネルギー・環境技術を俯瞰しながら、学際的・国際的かつ長期的な視点での環境・エネルギービジョンの検討に参画してきた。

 

農工融合によるバイオマス研究プロジェクトの推進千葉県山田町(現・香取市)における実証試験(2004~2006年度:農林水産技術会議事務局委託事業)への参画を経て、長野県信濃町におけるバイオマスエネルギーの地産地消「地燃料」プロジェクトの実証研究(2006~2008年度:科学技術振興調整費・科学技術連携施策群)を立案した。両実証研究ともに地元関係者との協議、構想作成やプロセスの基本設計から現場の運営まで中心的な立場で携わっている。(書籍:望月和博,(分担執筆:他34名),「アグリ・バイオマスタウン構築へのプロローグ」(農林水産バイオリサイクル研究・システム実用化ユニット 編),農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所,茨城,2007、論文:望月和博,「長野県信濃町における地域完結型「地燃料」システムの実証試験」,ペトロテック32(11), 827-831 (2009))

東南アジアにおけるバイオマス研究の展開:東京大学生産技術研究所とベトナム・ホーチミン市工科大学(HCMUT)化学工学部の「バイオマス資源の持続可能な利活用に向けた研究・教育を相互に協力して推進する合意書」(2006 年2月)の締結および研究拠点として「東大生研HCMUT 分室」の設立と運営に参加した。この取り組みは、国際共同研究プロジェクト、JICA/JST SATREPS「持続可能な地域農業・バイオマス産業の融合」(2009-2014 年)の基盤となっている。ホーチミン市工科大学内に研究用バイロットプラント、農村部のクチ群タイミー村にデモンストレーションプラントを設置し、工学的な実証研究を実施した。本プロジェクトは、農村地域調査・環境調査から工学的なプロセス研究・要素技術研究までカバーする学際的な体制で取り組んだが、全体計画立案や組織運営などについても、中心的な役割を果たした。(代表論文:望月和博,迫田章義,「ベトナムにおける地産地消型バイオマス利用システムの構築を目指して」,廃棄物資源循環学会誌24(1),32-37(2013), )

 

工学技術の研究としては、バイオマスの炭化プロセスおよび炭化物利用技術、バイオマス由来基礎化学物質やバイオ燃料の製造、バイオマスの保管技術などをテーマとした。いくつかの成果を以下に示す。

水熱炭化による炭素材料の新規製造法に関する研究:単糖類、多糖類、あるいは木質バイオマスを原料として、高温高圧水中での炭化(水熱炭化)によるメソポーラスカーボンの製造法を確立した。(代表論文:K. Mochidzuki, N. Sato, A. Sakoda, Adsorption, 11 (Supp.1), 835 (2005))

メタン発酵汚泥の炭化リサイクルに関する研究:メタン発酵汚泥に含まれる炭素、窒素の熱分解時の挙動を明らかにすることで、過熱水蒸気雰囲気中での炭化処理は系外へのNOx排出が少ない技術であることを示した。また、得られた炭化物は重金属の除去に有効な吸着材であることを見出した。(代表論文:銭慶栄, 望月和博, 迫田章義, 環境科学会誌, 23 (1), 31 (2010))

リグノセルロース系バイオマスの糖化・発酵技術に関する研究:物理的・化学的前処理を含め、リグノセルロースバイオマスの酵素糖化や発酵技術に関する基礎研究を進め、バイオ燃料(バイオエタノール)製造プロセスの最適化に資する工学データを集積した。(代表論文:H. Wang, S. Kobayashi, H. Hiraide, Z. Cui, K. Mochidzuki, Applied Biochemistry and Biotechnology, 175 (1), 287 (2015), K. Mochidzuki, S. Kobayashi, H. Wang, R. Hatanaka, H. Hiraide, Journal of the Japan Institute of Energy, 94 (1), 151 (2015).)